VOL.5 ディフェンス編(総論)
ディフェンスの目的とプレーの選択
 フットボールはオフェンスに有利なスポーツだという人がある。
 オフェンスはフォーメーションやプレーの種類、スナップバックのタイミングを決定し、それを「仕掛ける」立場だ。相手の出方が分からないディフェンスに対してアドバンテージを持っているのは否定できない。ディフェンスはオフェンスのプレーにすばやく反応することを強いられるのである。

 しかし、このことはディフェンスが受身であるという意味ではない。綿密なスカウティングによって相手オフェンスの傾向を探り、プレーを読むことができれば、先手を打って積極的に仕掛けることが可能だ。
 この読みが当たる、すなわちゲームプラン通りに試合が進めば、相手の攻撃をことごとく封じ、相手に常に不利なフィールドポジションを与えることができる。

 今年(2001.1.28)のNFLスーパーボウルは、レイヴァンズのディフェンスがジャイアンツのオフェンスを完封し、ミスによる自滅を誘発した試合だった。ディフェンスがゲームをコントロールした好例だ。こう考えると、フットボールとは決してオフェンスに有利なスポーツではない。

 ディフェンスとはある意味で推測のゲームだ。相手がどういうフォーメーションを使ってくるか、ランでくるかパスでくるか、誰にボールを持たせるか――こういったことをフィールドポジションやダウン&距離などの多岐にわたるシチュエーションに応じて予測し、最も効果的と思われる守備方法を選択する。この推測がディフェンスの全てと言ってもいい。ゲームを観戦する際、自分がプレーコールを出すつもりでディフェンスの推測をシミュレートしてみることも楽しみのひとつだ。

 ディフェンスの最大の目的は、相手の得点を許さずに少しでも早く自分のチームにボールの所有権をもたらすことである。言い換えれば、相手をパントに追いこんで攻撃権を放棄させることだ。
 そのとき、相手のフィールドポジションが悪ければ悪いほど(つまりゴールから遠いほど)理想的ということになる。

 オフェンスは通常、敵陣深くまで攻め込んでいない限り、第4ダウンではパントを選択して陣地の回復を図る。ディフェンスは第3ダウンを終えた時点でファーストダウンを許さなければ、役割を果たしたことになる。
 逆にゴール前まで進んでいる場合、オフェンスは第4ダウンギャンブルでファーストダウン獲得に挑戦するかFGを狙うだろう。すなわちディフェンスは4回目の攻撃に備えなければならない。その境目は、ほぼゴール前35ヤード前後だ(どこに境界線を引くかはチームによって異なる)。

 米フットボール界で著名なコーチ、バド・ウィルキンソンは35ヤードラインを境として、オフェンス側を「スリーダウンエリア」、ディフェンス側を「フォーダウンエリア」と呼んでいる。
 ディフェンスはできる限りこのスリーダウンエリアでプレーを展開したい。このエリアでオフェンスがファーストダウンを獲得するためには1回のプレーで平均3.4ヤード進む必要があるのに対し、フォーダウンエリアでは2.5ヤードで済むからだ。
 ディフェンスが成功する鍵は「相手オフェンスに常に長い距離を残させる」ことにある。プレーの選択権をオフェンスが持つフットボールで、ディフェンスが後手に回らずに積極的に仕掛けるためには、できる限り相手がファーストダウンをとりにくい状況を作り出すのが最良の方法なのである。

 スリーダウンエリアでのプレーを想定しよう。オフェンスが自陣30ヤードから攻撃を始め、第1ダウンをランで8ヤード獲得したとする。第2ダウン2ヤードというシチュエーションでは、オフェンスは次のプレーにいろいろな選択肢がある。ランでファーストダウンを狙うのもいいし、長めのパスを投げるのもいいだろう。それだけディフェンスの推測が難しくなるわけだ。
 逆に第1ダウンのランを2ヤードに止め、第2ダウンのパスが失敗に終わったとする。第3ダウン残り8ヤードという場面では、オフェンスがファーストダウン獲得のために一気に距離を稼ぐことのできるパスを選択する確率が高くなる。
 したがって、ディフェンスはパスを想定した守備隊形を敷くことができ、ブリッツなどのアグレッシブなプレーを仕掛けやすくなるのである。次のプレーがある程度まで推測できる分だけ精神的にも余裕が生まれる。

 フォーダウンエリアでも同じことが言える。ゴールを背にしているだけに、このエリアでは得点されるケースを覚悟しなければならない。しかし、長い距離のシチュエーションをコンスタントに作り出せれば、それだけオフェンスの得点のチャンスは狭まる。
 もし、第4ダウンロングの状況を生み出すことができれば、損失をFGの3点で押さえられる可能性が高くなる。

 オフェンスに長い距離を残す方法にはディフェンスがビッグプレー(ロスタックルやQBサック)を生み出すこと、オフェンスがミス(ファンブルや反則)を犯すことのふた通りがある。
 前者はDLのスタンツやLB・DBからのブリッツなどによって生み出すことができる。
 後者は一見消極的な方法に見えるが、実際のゲームではこちらの方が起こる確率が高い。ゲームでは全くミスを犯さずに10プレー以上も連続してドライブできるオフェンスというのは稀だ。その間には集中力を欠いて反則を犯したり、アサイメントミスが起こったりしがちだ。相手のミスを待つというのもディフェンスの重要な戦略のひとつなのだ。
 もちろん、ディフェンス自らがミスをしてはならない。

 もうひとつディフェンスが心がけなければならないことは、相手のビッグプレーを許さないことだ。ビッグプレーは一気に距離を稼ぐことができるから、それだけオフェンスが得点するまでに必要とするプレー数が減ることになる。結果的にミスをする機会も少なくなってしまう。

 ディフェンスの観点から試合を楽しむには、まず「ボールを追わないでディフェンス全体を見る」ことから始めてみてはどうだろうか。ディフェンス11人がさまざま動きを見せるのがわかるだろう。ある選手はオフェンス側に突進する(ラッシュ)するし、またある選手はレシーバーにピッタリとついて並走する(マンツーマンカバー)。プレーの開始とともに斜め後方に走って移動するパターン(ゾーンカバー)もあれば、プレーの方向を追う動き(パシュート)もある。
 ボールの動きを追わないことに最初は戸惑うかもしれない。しかし、目が慣れてくればディフェンダーの動きに規則性があるのが分かるだろう。ボールのスナップと同時に起こる最初の動きはディフェンスの推測に基づいた「意図した動き」であり、次にボールキャリアーを止めるために「プレーに反応する」動きが起こる。ディフェンダーが一点に集中して動くのが見えれば、そこがボールのあるところだ。
 こうした動きがどういう意味を持ち、どのような効果を生むのかは今後のラン守備編、パス守備編でみていきたい。



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