VOL7 ディフェンス編(パス)
マンツーマンカバレッジとゾーンカバレッジ
【1】パスディフェンスの意義

 パスプレーはフットボールの華だと言われる。オフェンスにとってパスは一気に長い距離を稼ぐことのできる有効な攻撃手段だ。
 NFLや日・米大学フットボール、Xリーグの違いを問わず、強力なパスオフェンスを持っているチームは例外なく高い得点力を持つ。
 しかし同時に、パス攻撃はボールの確保という点で確実性に乏しい。RBがボールをしっかりと抱えて走るラン攻撃ではターンオーバーの可能性が低いが、パスプレーではオフェンスとディフェンスが空中にあるボールを平等に奪い取る権利がある(つまりボールはフリーである)から、常にインターセプションが発生する可能性がある。
 パス攻撃が両刃の剣だと言われるのはこのためである。

 パス守備はディフェンスの中でも最もアグレッシブな一面が発揮される分野だ。パスディフェンスの目的はただ単に「オフェンスが長い距離をゲインするのを阻止する」のではなく、自分のチームに大きなチャンスをもたらすことだからだ。
 パスディフェンスによって作り出される最大のチャンスは言うまでもなくインターセプションだ。ターンオーバーで攻守が一瞬のうちに入れ替わり、自チームに得点のチャンスが訪れる。アメリカのコーチの中には「パスディフェンスで最も強調すべきはインターセプションである」とする人も少なくない。
 また、QBサックはオフェンスを大きく後退させ、この『観戦の強化書』の総論から一貫して掲げてきた「相手オフェンスに常に長い距離を残させる」というテーマを実践するものである。

 インターセプションやQBサックのようなビッグプレーでなくても、相手のパスを失敗に終わらせることができさえすれば、オフェンスは元の位置に留まるだけでなく、再び同じ距離を攻める方法を考えなければならない。つまりパスディフェンスとは、積極的で、攻撃的なディフェンスプレーなのである。

【2】マンツーマンカバレッジとゾーンカバレッジ

 パス守備の方法にはマンツーマンカバレッジとゾーンカバレッジの二通りがある。
 マンツーマンは文字通りディフェンダーの一人一人がオフェンス選手の一人を担当して、プレーが終了するまでマークし続ける方法だ。これに対しゾーンは、各ディフェンダーがある決められたエリアの守備を担当し、自分のエリアに入ってきたオフェンス選手に対して守備を行うものだ。

<2−1>マンツーマンカバレッジ

 オフェンスがプロ隊形、ディフェンスが4−3隊形というXリーグでもよく見る構図を例にとろう。
 基本とされるマンツーマンカバー(図 1)では両サイドのワイドアウト(WRとSE)をCBがカバーし、SSはTEを担当する。FSは特に決められたアサイメントは持たず、フィールドの中央よりに深く位置し、マンツーマンカバーから漏れてきたレシーバーをマークする。

 相手のレシーバーに対してCB一人では守り切れない可能性があるときには、FSがサポートに回る。このように一人のレシーバーに対して、二人のディフェンダーが守備することを「ダブルチーム」もしくは「ダブルカバー」と呼ぶ。
 OLBは、パスコースに出てくるRBをマークし、MLBはQBの動きに注目する。LB陣はQBにスクランブルで走られないようにコンテインもしなければならない。

 マンツーマンの利点はディフェンダーがレシーバーをピッタリとマークするためにインターセプトのチャンスが広がり、パスカットの可能性が高くなることだ。
 ただし、俊足で機敏なレシーバーに離されることなくついていかなければならないため、ディフェンダーには高い運動能力が要求される。レシーバーのパスコースは真直ぐなものばかりではないから、その複雑な動きに対応することも重要となる。

 WR対CBというのはマンツーマンディフェンスでも最も面白いバトルが展開されるマッチアップだ。これを例にマンツーマンのテクニックを説明しよう。

 オフェンスがラインアップしたところで、CBはWRの前に位置する。この際、レシーバーがインサイドに走りこむのを阻止したい場合には相手よりもやや内側に自分の位置を取る。アウトサイドの守りを固めるときは相手の外側に位置する。
 短いパスを警戒するときやレシーバーのスピードについていける自信があるCBはレシーバーから2〜3ヤード離れた位置に構える。

 ボールがスナップされると同時にレシーバーの動きに合わせて走るが、この際にCBはスタート直後のレシーバーに対して軽く当たりを加えることがある。
 このテクニックはバンプ&ランと呼ばれ、レシーバーのパスコースの軌道やタイミングを狂わせるのに有効である。ただし、レシーバーがスクリメージラインから5ヤード以上離れたあとに接触があると反則をとられてしまう。

 俊足のレシーバーをカバーするCBは相手との距離(これをクッションという)を5〜7ヤードほどとって位置する。これによってスピードレシーバーに抜かれる危険は少なくなるが、その反面で浅いゾーンでのパスカバーが甘くなる。

 プレーが開始されるとCBはWRと並走するが、決して相手を自分の後ろに行かせてはならない。ダブルカバーによるFSの助けを期待できない限り、レシーバーに抜かれてしまったらパス成功がそのままTDとなってしまうからだ。

 自分のカバーしているWRにパスが投げられたら、CBはインターセプトかパスカットを狙う。最悪でもパスキャッチしたWRを即座にタックルして、オフェンスの稼ぐ距離を1ヤードでも短くする。
 その際に最も気をつけなければならないのは、ボールをキャッチしようとするWRに接触して、パスキャッチを妨害してはいけないということだ。相手のパスキャッチを故意に妨害したとしてパスインターフェアランスの反則をとられてしまう。パスインターフェアランスは最大で15ヤード罰退するだけでなく、オフェンスにファーストダウン更新を与えてしまう。
 ただし、CBが自らもボールを捕球しようとして、偶然に相手と接触した場合には反則にはならない。

<2−2 ゾーンカバレッジ>

 既述したようにゾーンカバレッジではフィールドをいくつかのエリアに分割し、それをディフェンス選手が分担して守る方法だ。
フィールドの分割方法は一通りではなく、使用するディフェンス隊形やチームの人材、相手オフェンスの傾向や予想されるプレーによっていろいろなバリエーションがある。

 図2は、4−3隊形からのゾーンカバレッジの一例で、スクリメージラインから約10ヤード前後の深さのアンダーニースゾーンを4分割し、それより深い場所を3分割した「4アンダ−3ディープ」と呼ばれるものである。
 この例では左のフラットゾーンをSSが、左のフックゾーンをSLB、右のフックゾーンをMLB、右のフラットゾーンをWLB、左右のディープゾーンをCB、そして、ミドルのディープゾーンをFSが担当している。ここでは4人のDLはQBにプレッシャーを与えるべくパスラッシュを敢行する。

 同じ「4アンダ−3ディープ」でも、例えば右のフラットゾーンを右DEに守らせ、WLBをブリッツさせる方法(ゾーンブリッツ)もある。相手のオフェンス傾向によってアンダーニースの守りを強化したければ、「5アンダ−2ディープ」にしたり、逆にディープパスに備えるために「3アンダ−4ディープ」にする場合もある。
 どういうゾーンカバレッジを使うかは、フィールドポジションの状況や相手オフェンスの隊形などを見てディフェンスキャプテンがコールする。

 ゾーンカバレッジはマンツーマンと違ってレシーバーと1対1で対決するものではないから、身体能力の差が比較的問題とならない。限られたエリアを守れば良いからディフェンダーにとっては守りやすい。
 ただし、レシーバーとディフェンダーの間に距離ができるからショートパスなどは通されやすくなる。また、ひとつのゾーンに2人以上のレシーバーが入ったり、ゾーンの境目を狙ってパスを投げられると“もろい”という欠点がある。

 ディフェンスのカバレッジがマンツーマンかゾーンかは、プレーの開始と同じにディフェンダーがどういう動きをするかで見分けることができる。
 なかでもCBを見るのが最も分かりやすいだろう。CBが自分のマークしているレシーバーの動きに合わせて並走するようならマンツーマン、レシーバーの動きに関係なく特定のエリアに向かうようならゾーンだ。

【3】ニッケル・ダイムディフェンス

 3rdダウンで長い距離が残ってしまった場合、オフェンスがパスプレーを選択する確率が高くなる(これをパッシングダウンという)。その際、オフェンスはRBを減らしてレシーバーの数を増やし、パスを成功しやすくする。
 また、最近ではパッシングダウンに限らずレシーバーを3〜5人も出すマルチプルとかスプレッドと呼ばれるオフェンスフォーメーションも多く使われる。こういったパスに強い攻撃隊形に対応するためにディフェンスはDBの数を増やすのが常套手段だ。

 通常4人のDBを5人にしたディフェンス守備をニッケル守備(アメリカの5セントコインが別名こう呼ばれるためにこの名称が付けられたという)、6人に増やしたディフェンスをダイム(10セントコインの別名)という。DBを増員する分、パスラッシュやアンダーニースゾーンの守備を犠牲にしてDLやLBを減らす。

【4】パスラッシュ

 パスディフェンスというと「レシーバー対セカンダリー」という図式がまず思い浮かぶが、DLやLBによるパスラッシュも重要な要素である。パスラッシュとはボールがスナップされた瞬間、タックルするべくQBに襲いかかることだ。
 最大の成果はQBがパスを投げる前にタックルすること(QBサック)だが、そればかりがパスラッシュの目的ではない。QBにプレッシャーを与えることよって投げ急ぎを誘うことができる。
 QBはロングパスを投げる時間的余裕がなくなるから、必然的にショートパスが増えることになるし、焦る分だけパス失敗が増える。さらに、QBがサックを避けるために走りながらパスを投げることを強いられた場合、コントロールミスやレシーバーとのタイミングのずれが生じ、パス失敗やインターセプションの可能性が高くなる。

 一口にパスラッシュと言ってもDLだけがラッシュするものや、LBやセカンダリーも加わるものなどバリエーションに富む。ラッシュに加わる人数が多いほどQBへのプレッシャーが強くなるが、反面フィールドのパスカバーが弱くなるということも忘れてはならない。

 図3はDLが使うパスラッシュのテクニックの例を挙げたものだ。これにLBやセカンダリーのブリッツを加えることによってラッシュはより複雑で強力なものとなる。

【5】ブリッツ

 LBやセカンダリーがボールのスナップバックと同時にオフェンス側にラッシュして、QBサックもしくはロスタックルを狙うプレーをブリッツという。一種の奇襲攻撃で、相手の意表を突くことに成功すればオフェンスを大きく後退させることが可能だ。

 ブリッツには一人のディフェンダーがオフェンス側に突入する場合もあれば、複数のディフェンダーがコンビネーションを組んでラッシュする場合もある。(図4)
 ディフェンダーがオフェンス側に突入する分だけフィールドを守る人数が少なくなるため、ブリッツを敢行する際のディフェンスはレシーバーを1対1で守るマンツーマンカバレッジが常識とされてきた。
 しかし、最近ではDLをゾーンカバレッジに参加させることによって人数の不足を補い、ゾーンとブリッツを合体させた「ゾーンブリッツ」と呼ばれるディフェンスも採用されるようになってきている。



 ブリッツはギャンブル性の強いプレーで、成功すればその成果も大きいが、失敗したときの痛手も小さくない。
 ブリッツしたディフェンダーが本来担当するべきだった守備範囲がどうしても手薄になるから、そのエリアにパスを通されたり、RBに走りこまれたりするとロングゲインにつながることも多い。ブリッツディフェンスを多用するチームにはこの点をどう克服するかが重要な課題となる。

 現在のXリーグでは昨年度の日本一のアサヒ飲料やリクルートなどが強力なブリッツディフェンスを持っている。



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